へばなさんとのファーストコンタクトとなった,初めての 600km ブルベの記録を HDD から発掘したので再掲しておく。なお,情報に関しては 2008 年当時のものであることを断っておく。
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BRM802_2008 宮城 600km 完走記
2008年8月2日 am 0:00 Start ~ 2008年8月3日 am 11:00 Finish (35 h 00 m)
下はコース確認のためにコピーしておいたツーリングマップルの地図を貼り合せてみたもの(不要になったので)。
14万分の1の地図で畳み1畳分ほどになる。やっぱり,600km ってのは,それなりに長い(笑)。
プロローグ
「ブルベ」という言葉を耳にしたか目にしたかしたのは,もう随分前のことである。多分,自転車雑誌に掲載された記事だったような気がする。カナダのロッキー山脈を 1200km 走る耐久ランに参加した記事だったように思う。そのときは,「ハードな自転車遊びがあるものだ」と思った程度だった。だが,妙に心惹かれるものも感じた。それから,同じ雑誌にパリ~ブレスト~パリに日本人が初めて参加したとの記事が掲載された。今思えば 2003年の大会だったらしい。これも興味深く読んだ。もっとも,どちらの記事が先だったかは判然とはしない。
以来,言葉としての「ブルベ」は頭に入っていたが,実際に「ブルベ」を走ろうとまでは思ったことはなかった。参加者のブログやAJ 埼玉やAJ 宇都宮の HP などを通して,その雰囲気を感じ取っている程度だった。300km までの距離はこれまでも何度も走っていたし,自分としては長距離のファストラン系の方が性格的にも体質にも合っているような気がしており,参加してみたい気持もあったが,わざわざ関東方面にまで出かけて参加するほどに,気持が熟成するまでには到らなかったのである。
しかし,ここで状況が少し変わってきた。一昨年(2006年)にランドヌール宮城が設立され,宮城(というか東北)でも昨年からブルベが開催されるようになったのである(2007年は 200km と 300km のみの開催)。折しも,昨年(2007年)はブルベの最高峰・パリ~ブレスト~パリ(PBP)の開催年(4年に1度開催)に当っており,友人の一人も埼玉などでブルベを走り SR の認証を受けて, PBP に参加し,見事に完走した。Web で刻々更新される PC の通過状況をチェックしながら届かない声援を送っていた。こちらは PBP など夢のまた夢だったが,まだ走ったことのない,400km,600km の長距離ブルベはどんなものなんだろうかと興味津々の状態だった。だが,この時点になっても,400km 以上のブルベを走るために関東方面に行こうとはしなかった。元来,面倒臭がり屋なのである(笑)。
今年(2008年)になって,またまた状況が変わった。私の行動のきっかけには,どうも周囲の状況変化が必要らしい。ランドヌール宮城の HP に 600km ブルベの開催予定が掲載された。AJ 宇都宮との共同開催とのことだった。出てみようかと考えた。でも,400km も走ったことがないのに,いきなり 600km。しかも開催時期は真夏,..。汗っかきの体質なので真夏の長距離では常に苦しんでいた。BRM622 宮城 300km の際に顔見知りに訊けば,やはり,距離と開催時期を考えて,参加を躊躇しているとのことだった。私の方も同様だった。しかも,400km 以上では必須になるナイトランの経験がほとんど(全く?)なかったことも,参加を躊躇する理由だった。そんな訳で 300km を走った後も参加の踏切りがなかなか付かなかった。
しかし,「ブルベ 600km の完走」は,自身の HP で新年の目標として掲げてしまっているし,自転車仲間と呑んだ際にも「走る!」宣言をしている。さらに今年は,600km を走り切るべく,3月から例年にない距離の走り込みをして,身体的パフォーマンスもこれまでにないほどの状態になっている。今更後には引けないというのが実情だ。600km を走り切るのに残っている必要なものは,小さな一歩を踏み出す勇気と経験値だけのはずだ。スポーツエントリーのページから,ポチッとしたのは 300km ブルベの直後(6月27日)だった。さあ,もう後は覚悟を決めて走るだけだ。この出来るか出来ないかギリギリのところのチャレンジが人生を豊かにしてくれる唯一のスパイスだと最近は思うのである(笑)。
準備編
まず,機材関連である。自転車は 200, 300km に使用した COLNAGO はやめて,COPPI にした。このフレームは,今中大介選手がツールを走った時のものと同じものである。アルミ製(コロンバス・アルテック2)で硬いといわれているが,COLNAGO に比べれば,ヘナヘナと表現してもいいような柔らかいフレームである(と感じている)。いつもは練習用というか,代車にしていたマシンである。これを 400km オーバーのブルベ用のマシンにした。#ハンドルの高さがステムで変えられるのも利点。その後の 400km 以上のブルベでは常にこのマシンだった。
下の画像は,600km 完走後のマシン。雨の可能性もあったので,後輪にのみ簡易の泥除けが付けてある。トラブルなく 600km を走ってくれたマシンに,ありがとうと言っておこう。ちなみにフル装備で 10kg オーバーである(笑)。#いや,12kg ほどもあったような気がする。
パーツ構成は以下の通り。クランク:シマノのコンパクトドライブ(50T & 34T, 165mm),スプロケット: Dura-Ace 10 speed (12 - 25T),ブレーキ本体:前後とも古い Dura-Ace (7400 系?),フロントディレーラ: Dura-Ace(105 の奴は強度不足で走り込み中にプレート部破損),リアディレーラ: 105,STI レバー: 105,サドル:スペシャライズド,ボディジオメトリ Alias 143mm,ホイール:クラシカルな手組み(これが一番良いと思っている)で,リム:ARAYA の RC-540,スポーク:メーカーは知らないが,#15, #14 のダブルバデット(だったと思う)。リアハブ:古い Dura-Ace(7400 系?),フロント:シマノ製のハブダイナモ (DH-3N70),ハンドル: NITTO のSTI 用の 420mm,ステム: NITTO 110mm,タイヤ:DedaTRE GRINTA (700 x 23C)で,一本 3000 円弱の安い奴だが,なかなか感じが良くて,自分としては他のメーカーの 5 ~ 7000 円のものと遜色ないと思っている(錯覚かも知れないが)。いろいろなブログなどでも好評の様子。
さらに,実際に走ってみればあまり(ほとんど?)必要だとは思わなかったが,申し込んだ時点で GPS が不可欠なような気がしていた。知り合いが使わなくなったというものを借用したが,結局前日までジタバタした揚げ句に使わなかった(使えなかった?)。どうも,こういうものに頼り過ぎると何かトラブルがあった場合に困るような気がする。やはり,人間がキューシートをきちんと読む方が「ブルベ」らしいというか,それこそが「ブルベ」というような気がしている。#もし,使いこなせていたら,違ったコメントがここにあるだろうことは容易に想像がつく(笑)。
もう一つの重要な装備が,夜間走行用のライトである。ママチャリで街中を走行するのとは訳が違う。外灯一つない山中の道を,時速 30km で走るためのライティングシステムというものを考えた場合に,選択肢はかなり限られる。いろいろと調べたが,結局ハブダイナモと匠光楽 [1] のライトの組み合わせを選択した。さらに,もう一灯の予備ライトとして,INFINI LUXO を使用した。ライトについては,好みもあるので,これが絶対だというものはないだろう。こればかりはいろいろと試行して自分自身にあったものを用意するしかないように思う。下の画像は,匠光楽のハブダイナモ用の 3W LED ライト。詳しいことは知らないが,多分内部に交流→直流の変換回路が組み込んであるものと思う。他の方々の評判通り,何度か夜のロード練習で使ってみたが,圧倒的な明るさで,夜間走行に対する不安解消に大きく役立った。また,補助で用いる電池式の LED ライトに関しては,こんなページがある。S氏からの情報です。ありがとうございます。
[1]「匠光楽」というのは,西井匠氏が趣味で行っている,ライトの改造に関する「私設研究所」のようなものである(なのかな?)。製作者の西井氏は仕事の傍ら,ライト製作を趣味としているので,興味のある方は,西井氏のブログを通して氏にコンタクトして頂きたい。
準備に関して,機材はもちろんだが,自身の肉体に関する準備が必須である。むしろ機材以上に重要である。機材なんぞ,ママチャリでも十分なのである(笑)#へばなさんが実証している。今年は,当初から600km ブルベを一つの目標にしていたので,3月から出来るだけ距離を踏むようにした。3月の米沢はまだ雪が残りロード練習もままならないので,自転車を車に積んで福島の飯坂附近まで出向き,そこを起点にして 100 ~ 150km 程度のロード練習を毎週のようにこなした。とにかくそれなりのアップダウンを含むコースを選択するようにした。シーズンインの後は,200, 300km のブルベ(300km まではとにかくスピード重視のタイムアタック),200km のセンチュリーラン(これもタイムアタック),自主的な 200km オーバーのアップダウンコースの走行,磐梯吾妻の山岳観光道路を何本か繋いで走るといったようなことを繰り返した。結果,3~7月でローラーを含めてほぼ 8000km を踏むことが出来た。お陰で,登りのスピードはそれほどではないものの(と言うよりも,正直遅い),ブルベにとって必要な(と思える),何度アップダウンを繰り返しても容易にへたらない脚を作ることが出来た(と思う)。ローラー練習を開始した昨年秋から体重は 13kg ほど減り,チェック用の強度での運動時心拍は 20 bpm ほども低下した。ブルベ前週の,鳥海のヒルクライムも,自分としてはそこそこのタイムで登ることが出来た(まだまだ遅いけれど)。まだまだ,絞り足りない部分はあるが,身体的な準備は一応整ったと感じた。
さらに,唯一不安に思っていた(未体験の)400km オーバーの距離に関しては,当初,練習と最終的に SR 取得を目論んで,BRM705宇都宮 400km への参加を検討したが,いろいろな都合が合わずに参加を断念した。その代わりとして,7月12日に距離 475km,獲得標高差 3800m のシミュレーション走行(一部8月の 600km ブルベのコースを含む)を敢行し,23時間弱で完走した。午前3時に雨中スタート,午前2時に帰着という,絶好の(悪?)条件でのシミュレーションだった。機材や装備の善し悪しや長距離走での身体の変化,補給の仕方など,多くの情報を得ることが出来た。特に,本番で使用するザックの防水性のチェックやら,ザックを背負うことの身体へのダメージなども検討できた。この結果を受けて,ライトの取り付け方法の見直し作業などを行えた。お陰で 400km オーバーの距離に対する心理的なバリアが大きく下がった。一緒に走って頂いた樋口氏には深く感謝したい。なお,シミュレーションで得られたデータらしきものは以下の通り。
1.VAUDE 製のザック Ultratrail 20 の防水性能は秀逸。土砂降りの雨の中でも中に入れたものはまったく濡れず。ただし,この防水機能がどの程度持つのかは不明。案外短命かも知れない。
2.カンパニョーロの雨具は,可もなく不可もない。多分,どんなに高価な雨具でも汗で内部が濡れるのは変わらないだろう。
3.雨でシューズが濡れたまま20 時間ほども走る場合には,少なくてもソックスを,できればインソールとソックスを交換した方がいいだろう。雨でふやけた足の裏を固いレーサーシューズの靴底に押し当てることを10時間以上も続けると,足底が靴擦れ状になって痛くて溜らなくなる。今回も,足の裏の母指球附近の痛みと足先の痺れで苦痛を感じた。400km 以上走る場合には雨で濡れなくても汗で濡れていることがあるので 300km 程度で一度靴の中敷とソックスを交換するのがいいのかも知れない。
4.上と同様のことがレーサーパンツに関しても言えそうだ。雨で濡れたあと,あるいは多量の発汗で濡れたレーサーパンツで長時間走行すると,時にお尻の皮膚と擦れ合って,堪え難い痛みを伴うようになる。あるいは,これは経験した方もいるだろうが,コンビニなどで大きい方の用を足した後,レーサーパンツを履き直すと,パッドとお尻の接触位置が微妙にずれて,同じような擦れが起こり,これまた堪え難い痛みが出ることがある。この対処方法としてはレーサーパンツを履き替えるのが有効なように思う。あるいはレーパンのパッドにクリームを塗り直すことで解消できるかも知れない。この点は今回のシミュレーションでは確認できなかった。
5.補給はまあまあ巧くいったような気がするが,やはり15時間を越える走行時間になると,固形物の補給が摂り辛くなった。水分の過剰摂取による胃液の濃度低下が原因かも知れないが,水を飲まない訳には行かないし,この辺りは個人差が大き過ぎて一般論はないようだ。
6.補給食に関しては,これまた個人差があり過ぎて一般論は成立しない。今回,長時間の走行を経験して,やはり「羊羹」が優れた補給食だと再認識した。帰りの小原温泉附近でどうにもおかしな眠気が襲ってきた時,男鹿行き(チームの恒例イベントに,男鹿半島 - 米沢の 300km ファストランがある)の経験から,恐らくはハンガーノック性の眠気だろうと判断。保険に持っていた羊羹を食べてしばらくしたら眠気が消えた。カロリーメイトなどでは咽につまらせて窒息しかねない(笑)。
7.ヘッドランプは夜間にメータ類をチェックする以外には使わなかった。で,あればメータ類のライティングシステムを設置してヘッドランプは外した方が走る身にとっては遙かに快適だ。ただ,道路標識の確認などにはあった方が良いかも知れず,その点(ヘッドランプで標識やランドマークが確認できるかどうか)だけは未確認。
8.走行中,フライトデッキの速度表示が「0」になった。Qシートを参照しながら走る場合,これは命取りになる(大袈裟な)。新たに距離計を付けるべきかどうするか,..。
9.シマノ製のレインキャップなるものを初めて使ってみた。で,これはいい。今までは雨中走行時は眼鏡を指ワイパーで拭いながら走ったものだが,帽子の庇のせいで眼鏡のレンズに水滴があまり付かない。プロ選手などが雨天のレースでレーサーキャップを被る訳がようやくわかった。水滴が目に入り辛いだろうということは予測できたけど,ここまで効果があるとは思わなかったのである。
10. シューズのソールだが,流行りの硬いカーボン製よりも,プラスチック製の柔らかめの方が長距離,長時間には適しているように思う。
11. ライティングシステムは,匠光楽に関してはほぼ完璧。照射角度を走行中に微妙に変えられるようなシステムがあればなお便利である。
走行前のマシンのハンドル周りは下の画像のようになった。キューシートは短冊状に切って一方を束ねて2枚のプラスティック板に挟んでハンドルバーに固定した。右側のコマを通過したら一枚日めくりカレンダーのようにちぎって捨てるのである。だから,もしミスコースをして次の短冊に行くと致命的となる(笑)。もちろん,そうした場合に備えて,もう一部をザックに入れておいた。今から考えると,PC から PC までを一枚に収めるようなやり方もあった。次回からは,そういう形式にして,各ページをラミネート加工しようと思う。
ヘルメットに搭載するライトに関しては,主たる役目はメータ類やキューシート(あるいはコマ図)確認であるから,それほど吟味する必要もないように思われた。しかし,夜間のパンク修理などへの対応を考えると,やはりそれなりに充分な明るさは確保しておきたい。7月のシミュレーション走行の結果から,重いライト(100g 以上のものを取り付けた)では,長時間走行による頚,肩へのダメージがかなり大きいことがわかった(半端ない肩凝り)ので,出来るだけ軽量のものを探して取り付けた。下の画像がそれだが,Panasonic の BF-264BP という製品で,電池,ベルト込みで 50g という軽量なもの。ベルトは外して取り付けたので,実際の走行時に重さは全く気にならなかったし,光量も十分だった。感覚的には 100g を越えると,長時間走行中に頚や肩に負担が感じられるように思う。
こうしてみると,今年に入ってからの自転車遊び(?)のベクトルはすべて 600km ブルベに向いていたようだ。これだけやって,もし完走できないとしたら,それはよほどの間抜けに違いない(笑)。
前日(8月1日)
前日はできれば休みを取りたかったが,いろいろあって無理だった。それでも,早めに帰宅したので,少しでも仮眠を取ろうとしたが,気持が昂ぶっていて全く寝付けなかった。その前日も仕事やら GPS いじりで睡眠は3時間弱だったので,眠いはずだったのだが,..。
午後7時過ぎに装備一式を積んで,スタート地点の宮城県名取市 CSC に出発。10時半頃に会場着。誰も来ていない様子。ここでも,車の中で少しでも仮眠を取ろうとしたがやはりダメ。11時頃からボツボツ人が集まり出した。受付をして,準備を始める。ザックを背負う人は少ないようだ。シートポストに取り付けるビームタイプのリアバックを用意して,そこに全部の装備を入れるのがベストだろうけど,サドルやシートポストの関係で巧く合うのが見つからなかった。
さて,ザックに何を入れて走るかは,長距離になれば,それなりに重要になる。今回は,雨具(にわか雨なども考えていた),レインキャップ,ウィンドブレーカ,替えのシューズの中敷とソックスとグローブ,ゼリー2つ(保険として),CCD 6袋(100km 当り1袋の計算),小さな羊羹を多数(PC 間での走行中の補給用,いくつかずつジャージのポケットに移し替えた),コピーした地図およびキューシートとブリーフィングで貰った休憩場所のプリント一式,ヘッドライトおよびバッテリーライトの予備電池,予備チューブ2本(チューブは全部で4本携行),尻用の塗り薬,アソスのクリーム,タオル1本,大きめと小さめのタイラップ数本(何かあった時のために),現金,...などである。あ,デジカメも入れておいた(が,一枚も撮影していない)。こうして列挙すると結構な量になる。おおよそ 3kg ほどだろうか。なお,使ったのは前述したように VAUDE 製のザック Ultratrail 20 である。使用レポートは,こちら,あるいは,こちら。優れた防水性能は,7月のシミュレーション時に実証済み。#赤字は結局使用しなかったもの。今なら防水性能の高いデジカメもあり,走行中かなりの枚数を撮影するので,走行後の画像整理に時間が掛かって仕方がないが(苦笑)。
ジャージのポケットには,ビニール袋に入れた携帯電話,小銭,小さな塩羊羹5~10個,ビニール袋に入れたブルベカードといったところ。各 PC でのレシートはブルベカードと一緒にビニール袋に入れておく。飲薬の袋などがジップロックも付いていてちょうどいいサイズである。
8月2日(土)午前0時~8月3日(日)午前11時
午前0時。いよいよスタート。ここからは残念ながら写真が全くない。次回からは出来るだけ撮影しよう(笑)
名取(スタート地点) → 相馬(PC1 ローソン相馬松川浦店)47.5km,am 1:42
スタートしたのは10名ほど。スタートした途端に,SEKI みちのくやベルエキップ(だっけ?),チーム奥州など脚のある7名ほどがパックを形成し,どんどん先行する。こちらは,少し間隔を空けて付いて行く。なにしろ先は長い。最初の PC1 まではセンチュリーランなどで勝手知ったるルートなので,この区間でキューシートとサイクルコンピュータを照らし合わせながら走ることに身体と頭を馴らすことにする。匠光楽のライトの明るさは申し分なし。30km/h 前後で巡航する。
私の後ろには2名。一人は函館から参加とのこと。先日の恵庭 1000km はスケジュールが合わずに走れなかったとか。もうお一方は,先だっての宇都宮 400km を完走して,今回の 600km に SR が掛かっているらしい。なんでも,ロードバイクに乗り出してまだ数ヶ月とか。それでもう SR ですか,..。失礼だが,お腹周りもまだまだ太めで,もっと身体を絞り込めばさらに走るスピードは上がることでしょう。名前をお伺いしていなかったので,以降は,H氏(函館からの方),S氏(もうお一方)と呼ばせて頂く。
全くのド平坦なコースを走り,1時42分頃に PC1 のローソンに到着。H氏が,見辛い縁石に乗り上げて落車した。私も危うく乗り上げそうになった。幸い,機材関連のトラブルもなく,擦り傷程度で済んだ模様。ここで,水と小さなあんパンを買って,軽く補給。腰の痛み止めの薬を飲む。7名のパックは先にスタート。
ところで,GPS を眺めながらスタートしたが,走り出して 10分でトラックバックによるナビゲーションは瓦解した(笑)。これ以降は GPS はスイッチを入れた状態でザックに放り込んでおいただけ。しかも,ゴール後に確認すると電池切れ。つかえねぇ(笑)。
相馬(PC1) → 霊山(PC2 セブンイレブン福島霊山店)90.0km, am 3:52
PC1 をスタートして,ここから R115 に入る。このコースは霊山から相馬,相馬から霊山どちらも走ったことのあるコース。ダラダラ登りが十数キロ続く。明るいうちなら渓流沿いの,それなりの景観が楽しめるのだが,暗闇の登りは何も見えず,退屈で詰らない。S氏といろいろと話をしながら走る。途中で勾配が急になる。H氏が若干遅れ気味になる。この辺りで雨が降ってきた。ガスも出ている。湿度はほぼ 100% だろう。かいた汗が全く乾かない。しかも,発汗量が多い。なにしろ蒸し暑い。薬を飲んでもやはり腰は痛い。S氏が,ザックの肩ベルトを下げて,ザック本体を腰の上辺りで支えるようにすると腰の痛みが軽減すると教えてくれた。だらしのない高校生のような背負い方をするらしい。試しにやってみると,確かに少し楽なようだ。幸いなことに雨はピークに着く前に上がった。考えてみれば,私のキューシートは雨対策が全くされていない。雨が降ってきた時には,どうしようかといろいろと考えていたが,実行に移すことなく雨が上がってホッとした。
ようやく霊山子供の村付近を通過して,ここからダウンヒル。しかし,この辺りから眠気が襲ってきた。もう午前3時頃。昨晩は睡眠時間3時間弱。仮眠は出来なかった。眠気が出るのは無理もない。匠光楽のライトを持ってしても,コーナーの半径が正確に把握できないのでダウンヒルが少々怖い。と,後ろから車のヘッドライト並の灯が,..。てっきり車が後方に貼り付いたのかと思ったが,S氏のバッテリーライトだった。訊けば,リチウムイオン電池式の 5W LED のライトを4基搭載しているとのこと。猛烈な明るさだ。もっとも2時間しか持たないらしく,降り用と言っていたが。さすがの匠光楽のライトも,この5W 4発には敵わない(笑)。眠気でちょっとふらつきながら3時52分に PC2 に到着。ここで眠気覚ましのガムを買い,甘いデザートを食べ,前の PC で買った餡パンを食べる。ここでS氏が PC1 でレシートを貰っておかなかったことが判明。いきなりのトラブルだ。確かに,あのローソンのおっちゃんは言わないとレシートをくれなかった。まあ,我々が一緒にいたことを証言すれば大丈夫だろうと PC3 に向うことにする。ようやく空が白み出した。
霊山(PC2) → 小野(PC3 ミニストップ小野インター店)150.9km,am 6:54
PC2 を出て,明るくなった頃から眠さと怠さ(多分軽い脱水症状,睡眠不足だとなりやすい)のダブルパンチで走行スピードが全く上がらなくなった。一緒に走るH氏,S氏から遅れがちになる。 R349 はそれなりにアップダウンもある。半分意識を失いながら走る。トンネルを越えた辺りだろうか,水もなくなったので,一人ストップして自販機で給水。お二人には先に行って貰う。ここで,ハブダイナモからライトの接続を外す。しばらく体操のようなことをして少し気分がすっきりしたのでまた走り出す。一人の方が走ることに意識が集中するようだ。しばらく走っているうちに前方に二人が見えてきた。あれれ,追いついちゃったよ。結局,PC3 には6時54分に到着。ここは有人 PC で AJ 宇都宮の方がスタッフとして通過チェックしていた。S氏が PC1 の件を切り出せば,一緒にいた方が証言すればということで,無事に PC1 の通過が認められた。
今回の 600km のコースは基本的に八の字を描くように設定されていて,八の字の交点が,この PC3 である。したがって,この附近で宇都宮スタートの参加者(60名近いらしい)とすれ違う。ここでは沢山の宇都宮からの参加者と出会った。こんなに沢山のブルベライダーを見るのは初めてだ(笑)。ここでおにぎり2個とその他の補給を摂る。ここで,先行していた7人から離れた,仙台の土田さんが加わった。そこそこ長い休憩を取ってから,残り 3/4 に向って4名でスタート。残りは「3センチュリー(1センチュリー=160km)」である(笑)。
#写真は AJ 宇都宮のスタッフの撮影。なでら男はオレンジジャージ。土田さん,S さんと共に。
小野(PC3) → 塙(PC4 ファミリーマート道の駅塙店)213.3km,am 10:27
小野の PC を出てしばらく走ったところで,伝説のママチャリライダーと出会う。今年になって 200, 300, 400km ブルベをママチャリで完走し,今回の 600km ブルベで「ママチャリ SR」を目指す強者である。本当にドノーマルなママチャリだった。世の中には強靭な方がいるものだ。
さて,ここからが難所である。高架道路の工事現場を通過していよいよ始まる「石川広域農道」。標高差 20 ~ 50m ほど(あくまで主観,100m 程のところもあったか?)の登りと下りが,際限なく繰り返される。いい加減に消耗したところで,距離にして 3km 以上のアップヒル(どこがピークだよ?)。下って,大きな道にぶつかって,ようやく終わりかと思えば,道を横切ってから,また始まるアップダウン。いろいろな道路を走ってきたが,ここまでライダーの走力(気力?)をそぎ落としてくれるような道路はあまりお目に掛からない。もっとも,同行した方々が遅れ気味になるので多少ペースを落として登ったお陰で,徹底的に消耗するまでには至らなかった。今から思えば,あのペースで登ったことが最後までいい方に作用したようだ。もうじき PC4 だったが,水もなくなり,腹も減ったので,目に付いたセブンイレブンに入る。水を補給し,プリンを食っていると,土田さんも停車。二人で軽く補給。一息付いていると,後から来たH氏とS氏に先行された。すぐに PC4 だからね。休憩後,ほんの少し走って PC4 へ。着いたのは 10時27分。先の休憩ははっきり言って無駄だった。ここでも,おにぎりとかお菓子などを食べる。今日は食欲が落ちないのが幸いだ。
塙(PC4) → 馬頭(PC5 セブンイレブン那珂川町馬頭店)256.5km,pm 0:40 (?)
「石川広域農道」がようやく終わったと思ったら,また「県北北部広域農道」が始まる。それにしても,登らせてくれる。しかも,暑くなってきた。土田さん,H氏,S氏の3名からは先行。登り降りを繰り返す。もう,ここまで来ると笑ってしまう(笑)。それにしても,眠い,怠い,走るスピードが落ちる。ハンガーノックか? 咽も渇いたので道端の自販機でコーラを購入。ボケーッと飲んでいると,土田さんが追いついてきた。もうすぐ PC5 とのこと。私は,キューシートを短冊状にしているので,もうすぐ PC というような状況が判り難い。土田さんの後ろに付いて走る。1時近くになって PC 5 に到着。暑い。ここで日焼け止めを塗る(もう遅いって)。ここで,ぶっ掛けタヌキうどんとやらを食す。しょっぱい汁が美味い。どうも,ここのところ毎回これを食っているような気がする。食い終えた頃にH氏がやって来た。あれ?S氏は?ラーメン屋に入ったとの話もあったが,後で訊けば自販機で水を補給したとか。補給中のH氏,S氏に先行して土田さんと一緒に出発。ここからのコースがわかり難いと言うが,...。
馬頭(PC5) → 宇都宮(PC6 サイクリングターミナル) 302.3km,pm 3:15
それにしても暑い。物凄く堪える暑さだ。ここからまた始まる広域農道「八溝グリーンライン」。一体,どれだけ登るんだ? 登らなくても済むコースが取れるんじゃないのか?とすら思う。10% 近い急勾配を登って,ピークを越えて下りに入った瞬間に前方に同じような勾配の登りを見ることを今日は一体何回繰り返したことか。流石に嫌になってきた。AJ 宇都宮のコース作成スタッフに対する恨み辛みを口の中でブツブツと繰り返しながら,それでもなんとかアップダウンをこなす。「へっちゃら,へっちゃら,なんくるないさ,踏んでいればいつかは終わる,..」なんて言葉が頭の中をグルグル巡る。往路の残り数キロ。宇都宮の森林公園の 17%(なんてないようにも思うが) の急坂をようやく越えてたどり着いた PC6。登る途中で折り返してきた宮城からの参加者6名とすれ違う。羨ましいことに,元気一杯じゃないか。
サイクリングターミナルの2階の和室には AJ 宇都宮のスタッフの方2名がいた。時刻は午後3時15分。思ったよりもずっと時間が掛かったし,かなりの消耗度合だ。この消耗度合は,まさに想定外である。ここで,水を飲んだり,アイスクリームを食べたり,雑談したりと,1時間以上の大休止。エアコンの効いた部屋でほんの少しウトウトする。まだ陽射しが強くて,外に出て行って走る気にならない。エアコンの効く部屋を一歩出ると,ムッとする熱気に包まれる。後続の二人が着くまでとか言って,ウダウダと過す。が,なかなか後続の2名が来ない。こんなに離れるはずはないように思うんだが,..。仕方ないので,4時半頃に土田さんと出発。外はまだまだ暑い。さて,残り半分だ。消耗度合から判断して,復路が少々不安ではある。
宇都宮(PC6) → 那須塩原(PC7 セブンイレブン那須関谷店)351.5km,pm 7:10
PC6 を出発して,国道に出ると,向こうから走ってくるH氏とS氏の姿。頑張れよ~~! ここから那須塩原の PC7 までがえらく辛かった。県道 30 号が,緩やかにダラダラと登っているのである。スピードが上がらない。暑い。水が切れてきた。たった 50km ほどに2時間40分程も掛かった。PC7 に着いた時には,かなりへばっており,しかも,脱水,軽い熱中症のような状態で,正直,これじゃ完走できないと暗澹たる気持になっていた。やはり,この時季の一番の敵は暑さのようだ。この辺りでビアパーティで大盛り上がりの米沢の加藤さんから電話。こっちがかなりへばってイライラしている時に,いい調子で酔っぱらった声を聞くのは心底腹が立つ。面倒臭いからすかさず切ってやった(ごめんね)。
ここで水を1リットルほど一気飲みしてようやく落ち着いた。塩分とタンパク質を摂るために麻婆豆腐丼を食べる。幸い,まだ固形物が摂れる。試しに,リゲインなんてものも飲んでみる。ボケーッとしながら,これであと24時間踏み続けられるかなぁなんてバカなことを考える(笑)。と,遅れてきた土田さんが到着。開口一番「身体がおかしい」と。心拍が 150 から下がらないらしい。さらに,不整脈とか。脈を取らせてもらうと,「トトトト,ト,ト,トトト,トト,...」というような感じである。これはまずいだろう。私も以前に熱中症になった時に心拍が 180 から下がらなくて 10 分程蹲ったことがある。そうした経験から,熱中症と脱水じゃないのかということで,水分を補給し,食事を摂ったものの,なかなか回復しない様子。昨年の PBP を完走した方であるが,大事を取ってランドヌール宮城の鈴木氏に途中棄権の連絡をすることになった。ブルベは今日だけじゃないし,撤退する勇気も必要だ。PC7 から那須塩原の駅まで 5km 程で,そこから輪行して帰ると言う。お気を付けて。こちらの調子も楽観できるほど良いわけではない。知り合いに近況報告。美味いビール片手に応援してくれるようだ(笑)。女房から何度か電話とメールが来ていたので,自宅にも電話を入れる。死なない程度に頑張って走るぜ(笑)。それにしてもブルベって危険な遊びだ(苦笑)。
那須塩原(PC7) → 白河(PC8 セブンイレブン大信増見店)401.6km,pm 10:20
さて,ここからは一人旅のナイトラン。ちょっぴり,心細いぜ。ハブダイナモに匠光楽のライトを接続。圧倒的に明るい光が心強い。今いる辺りは那須高原との触れ込みだが,気温が高く蒸し暑い。所々でガスも掛っている。しかも,眠くて仕方がない。ここから PC 8 までは半分寝ながら走る。とにかく眠いので,どこかに仮眠の取れる場所がないかと探しながらフラフラと走る。
時折,ヘッドライトで走行距離とキューシートをチェックするが,スピードが 20km/h を割り込んでいることも多く,些かうんざりした。しかも,仮眠の場所を見つけられないまま,白河手前の県道68号(県道30号が途中から変わる)のアップダウンセクションに入る。7月のシミュレーションで走っているコースだが,おおよそコースを知っているだけに余計に堪える。途中で,道端で立っている女性を見つけたりしてビックリする(これは誰かを待っていた様子だったけど)。結局,仮眠場所を見つけられないままに PC8 に到着。見つけられないというよりも,もっといいところが,..などと考えて踏切りが付かなかっただけかも。本当に危機的状況なら道端でも十分眠ることが出来る。いずれ,その状態を迎えるわけだが,..。
ここで,コンビニのおばちゃんに,「自転車装束の6名くらいが来なかったか?」と訊けば,「アンタが初めてだ」との返事。どうやら,先行した6名はどこかで寝ているらしい。後で訊けば,温泉ランドのようなところで,風呂に入ってビールも飲んで,4時間ほど寝たらしい。ベストの選択と思う。こちらとしては,今回は出来るだけ悪い条件で走ってみたいと考えていたのできちんとした仮眠場所などは最初から考えていなかった。最悪を知ってしまえば,それ以降は何があっても「へっちゃら,へっちゃら,..」で行けるはず。でも,この状態になると,やっぱりどこかちゃんとしたところで仮眠取りてぇ~というのが正直なところだった。PC8 を出て,どうしようかと考えて,PC9 の有人 PC(往路の PC3)まで行けば仮眠が取れるだろうということで,何が何でも PC9 までいくことにして,PC8 をスタート。
白河(PC8) → 小野(PC9 ミニストップ小野インター店)450.2km,am 0:40 (?) あるいは am 1:00 (?)
ここの区間もアップダウンが続く。眠くて半分朦朧として走っていたので,余計にそう思うのかも知れない。暗闇で先が見えずに,コーナーを曲がる度にライトの光の中に新たに認識される登り勾配に心底がっかりしつつ,それでも走り続ける。そのうちに道路の白線が得も言われぬ催眠術のような効果を持ち始め,頭の中でおかしなストーリーが勝手に進行し始める。よく眠りに落ちる直前に全く脈絡のない話が展開するのと同じである。自分はいま自転車で走っているのに,頭の中では,パソコンに向って仕事をしているような映像が勝手に流れ始めるという具合である。その度に,いかんいかんと水を飲んだり,補給を摂ったりするが,また直ぐに同じような状態になる。終いに,白線がユラユラと浮き上って見え始めるし,道路脇の反射材を貼り付けたポールなどは全て道端の人に見えてくる始末。#このブルベ以降も 400km 以上の距離になって深夜走行を強いられると,眠気による幻覚に悩まされた。いわゆる「道端応援団」が多数見え始めるのである。道端の光を反射するものが全て人に見え始める。困ったものである(苦笑。
車もほとんど通らない山の中で,この状態になるとかなりやばい。もう,どこでもいいから寝転がって寝てしまおうという気分になってきた。それでも,距離を見れば,あと 10km もしないうちに PC9 に着くということで,そこまでは頑張ろうとフラフラと走る。小町ダムの辺りでようやく少し意識がシャキッとした。#大分後で聞いたのだが,このダム近辺は心霊スポットだとか(苦笑。
下りを走っていると折り返してきた宇都宮からの参加者数名のグループとすれ違った。ユラユラと揺れながら近づいてくる強力なライトの一群はブルベならではの景色で,やはり一種異様である(笑)。ようやく PC9 に到着。
ここで,カップ麺のカレーうどん,ポテトサラダ,野菜ジュース,牛乳などをドカンと補給。いつもはこれくらいの距離になってくると水分の過剰摂取(夏場だけだが)で胃液が薄まって固形物の補給が摂り辛くなってくるのだが,今回はなぜか何を食っても美味いので非常に助かる。補給後はミニストップの椅子に座って壁にもたれて1時間ちょっと仮眠。
よく考えれば,8月1日の朝6時に目覚めて以来だから,40時間以上寝ていなかったことになる。目が覚めると周囲の椅子には多数の参加者たちが同じように仮眠を取っていた。コンビニにとっては些か迷惑な客ではなかったのか(苦笑)。まだまだ寝足りなかったが,それからは巧く寝付けなかったので,しばらくそのままダラダラと休憩し,大分意識もはっきりしたので,3時半頃にスタートした。
#写真は多分 AJ 宇都宮のスタッフの撮影。やはり,だいぶ消耗しているようで頰がコケ気味。死んだように眠るなでら男。
小野(PC9) → 富岡(PC10 ローソン富岡上手岡店)496.6km,am 6:00 (?)
スタート直後は,仮眠を取ったこともあり,比較的すっきりしていた。さあ,残り 150km をガンガン行くぜ!ってな気分だった。途中で宇都宮からの参加者とすれ違う。お互いに「頑張れよ!」と手を振りあう。お互いに残りは「1センチュリー(160km)」程度である。もっとも,宇都宮組はこれから「石川広域農道」に突入するのだが,...(笑)。
1時間も走ると明るくなってきた。今回サドル上で迎える2度目の夜明けである。そしてここから猛烈な睡魔との戦いが始まった。なにしろ眠い。県道36号の川内村附近がまさに地獄。意識が飛び始めたこともあって,堪らずに道端の,今は使っていないような建物の軒下で横になる。目を閉じた途端に眠りに落ちたようだ。約30分の仮眠。まだまだ寝足りなかったが,走れそうだったので走り出す。ここで,ライトの接続は外した。これから富岡までに同様に道端に転がり2度ほど10分程度の仮眠を取ることになる。
ノロノロとようやく PC10 に到着。ここでは,焼きそばを補給。まだ食欲は落ちない。ここでも眠気覚ましになるかと,また栄養ドリンクのようなものを飲んでみたが,結果的に全く効果はなかった。もともとカフェインなどがほとんど効かない体質なのである。朝から陽射しが強く,既に暑くなってきている。やれやれと出発。
富岡(PC10) → 相馬(PC11 ローソン相馬松川浦店)554.2km,am 8:50
PC10 からは県道35号を北上する。ここもそれなりにアップダウンが続く。スピードが上がらない。また,猛烈な眠気が来た。登りで蛇行したり,下りでガードレールに吸い寄せられたりという状態になったので,またまた道路脇の歩道に倒れ込んで仮眠。行き倒れ状態と間違われないように(笑),きちんと自転車を立て掛けて,ザックを枕にして眠る。携帯のアラームをセットし,いっそのこと1時間くらい寝ようと思うが時折通り過ぎる車の音で目覚めてしまう。精々仮眠時間は10分程。起き上がると,汗で濡れたジャージで,路面にチーム名がプリントされている(笑)。
この状態になっても不思議なことに「何でこんなバカなことやってるんだろう,..」といった類いの愚痴めいたものは出ない。自分でも不思議なのだが,今まで「とれとれバイク」やら八代正氏の「ウルトラ 100km」などのイベントで,この手の過酷な状況に対する,かなり高い耐性が身に付いているようだ。こうした非日常的な体験をしている自分を,面白がっている第三者的な自分を意識することがある。基本的に「M」体質なのかも知れない(笑)。
それにしても暑くなってきた。海沿いの農道を走り,ようやく PC11(往路の PC1)に到着。ここでスタートから13回目になる食事を摂る(補給過剰かも)。おろし蕎麦を食ったが,この段階でも,うま~い(笑)。さて,残り 50km 弱だ。ここから先はキューシートは必要なし。意識もシャキッとしてきた。
相馬(PC11) → 名取(サイクルスポーツセンター)601.7km,am 11:00
ようやく眠気も消えた。スピードは 25 - 30km/h 程度。ところで,...
400km を越えた辺りから,尻が痛くなってきている。汗っかきのせいで,レーパンに塗り込んだアソスのシャーミークリームは既に流れてしまっている様子。そうならないようにと折り返し辺りから尻とレーパンに他の薬を塗り込んだりしていたがダメだったようだ。とにかく尻が靴擦れのような状態になっていることがわかる。サドル上での尻のポジションは,ピンポイント状態。少しでもずれると猛烈に痛い。何かの拍子にダンシングをすると,この位置がずれるために,猛烈な痛みが走るため,走りながらレーパンを少しずつ引っ張りながら,尻を上げたり降ろしたりしながら,痛みの来ないポイントに尻をずらして行く。この尻の痛みに関しては,折り返しでレーパンを履き替えるという方法もあったように思う。
さらに,長時間に渡り,ブレーキブラケットを握っている指の股もかなり痛んで来ている。特にフロントのチェンジをする左手が痛い。折り返しでグローブを換えたのだが,それでこの程度で済んでいるのか,効果はあまりなかったのか判然としない。走りながら,「いっそのこと,フロントだけシフトレバータイプにしたらどうかな?」なんてことも考えていた。リアは比較的頻繁にチャンジするものの,フロントはそれほどでもないので,シフトレバーの方が手へのダメージは減らせるかも知れない。それにしても,そもそも,STI レバーなんぞ,この距離の走行には不要じゃないのか?
それと今回は折り返し点でシューズの中敷とソックスも換えた。これはかなり有効なようだ。シューズの中で足底の当り面が微妙に変わるので長距離での足底へのダメージが軽減できてるようだ。持病ともいえる腰や頚などは 200km 程度からずっと同じような状態で,悪化することはなかった。痛み止めの服用は2回。これが効いたのかどうかはよくわからなかった。一方で,右の肩がひどい凝りで,痛みすら伴ってきている。まあ,600km も走れば,それなりにダメージは来るだろう。むしろ,想定したダメージよりも軽い。この程度で済んでよかったと言える。
最後の松林ロードも終わり,農道をグルッと走り,やたらに混雑している名取 CSC に入る。車が一杯の駐車場をグルッと回ってみて,ランドヌール宮城の鈴木さん発見。終わった。完走である。時刻は午前11時。35時間。復路に 19時間程も掛かった。平均で 16km/h 程度しか出ていない。もう少し巧く走れば,2時間くらい短縮出来たようにも思う。とにかく登りが多かったという印象がある(でも,昨年の 600km に比べれば,コースは大分楽になったらしい)。登坂に強くならないと,こういったコースの時間短縮は難しい。さらに仮眠を取る技術ももう少しなんとかしたい。そうした課題を残しつつ,いずれにしても,今年前半の最大の目標にしてきたイベント終了である。
近くの松韻荘(だったかな?)の風呂で汗を流した。尻が猛烈に痛い。風呂から出て,さっぱりしてサイクリングターミナルの3階の部屋に行ってみると,集団で走っていた6名が既に到着していた。お疲れさまでした。昨夜は6時頃から10時半頃まで仮眠を取ったらしい。復路も 13時間程度でクリアしているようだ。やはり,きちんと休憩や仮眠を取ることが所要時間短縮のポイントなんだろう。でも,やっぱり,条件の整っていないことの方が多いような気がするので,今回のような仮眠の取り方にも慣れておく必要がある。使い分けがポイントだ。
実家までの 30km 程度なら仮眠なしでもなんとか運転できるだろうと名取 CSC を辞した。が,やはり 600km のダメージはそれなりで,途中で意識が飛びそうになり,2度ほど停車して気分転換をする羽目になった。最近,あ,やばそうという感じが分かってきて,きちんと危険回避できるようになってきている。途中の松林の中で,向こうから走ってくるS氏発見。おめでとう。これで SR だ。実家に着いて,軽く食事して4時間ほど寝た。大分すっきりしてから出発。7時前には帰宅できた。
エピローグ
走る前は,これを完走したら,大きな達成感を味わえるだろうと思っていた。しかし,走り終えてみれば,なぜか達成感は今一つ。もっと全てを巧くコントロールして走りたい,走れたはずだという思いが残った。もう少し効率のいい仮眠の取り方が出来ていれば,もっと楽に走り切れたと思う。暑さもそれなりに堪えたが,一番の敵は睡魔だったように思う。脚の方は全く問題はなかったと思う。私にとってブルベというのは,「制限時間を目一杯使って愉しむ長距離サイクリング」ではなく,「ある程度の苦しさを伴った長距離の無伴走個人タイムトライアル」という位置付けのようだ。昔,ニューサイクリング誌に掲載された戸田真人氏の佐田岬(鹿児島)から宗谷岬(北海道)までの 2664.3km のタイムトライアルの記事(ニューサイクリング,1987, 12 月号,1988, 1月号)を読んで,驚くと同時に感動した経緯がある。彼のようなチャレンジは無理としても,質的に同じような経験をしたいという思いがどこかにあったのかも知れない。そういった思いが,走っている途中の辛さのようなものを全て受け入れられた理由のような気もしている。いずれにしても,長距離走の愉しみの扉はまだ開かれたばかりである。
最後になりますが,今回のコース設定から開催に至るまでの運営をして頂いた AJ 宇都宮およびランドヌール宮城のスタッフの皆さまに感謝致します。素晴らしいコースでした。あれだけ変化に富んだコースを設定していながら,きちんと 50km ごとに現れる PC は感動ものでした。また,素晴らしく完成度の高いコマ地図型キューシートでした。一人で,暗闇の山中でも全くミスコースすることなく走ることが出来ました。そして,途中一緒に走って頂いた土田さん,他の2名の方々(すいません。お名前訊くの失念しました)に感謝致します。さらに,すれ違った皆さん,同じ時間にコースのどこかで頑張っている参加者の皆さんからも力を分けてもらったように思います。加えて,素晴らしいライトを製作して頂いた西井さんにも感謝致します。電池切れの心配のない強力な光は夜間走行の際の大きな力となってくれました。以上,全ての方々に感謝します。ありがとうございました。
あ,最後の最後に,ビールジョッキ片手に遠く米沢の地から声援(?)を送ってくれたチームホシのチームメイトにも,...取り合えず,ありがとうです(笑)。
最後の最後の最後に,村上春樹の言葉を引用しておこう。彼が,100km マラソンを走っての感慨のようなものが記してある。それは,
『100キロを一人で走りきるという行為にどれほどの一般的な意味があるのか,僕にはわからない。しかしそれは,「日常性を大きく逸脱してはいるが,基本的には人の道に反していない行為」の常として,おそらくある種とくべつな認識を,あなたの意識にもたらすことになる。自己に対するあなたの観照に,いくつかの新しい要素を付け加えることになる。その結果としてあなたの人生の光景は,その色合いや形状を変容させていくことになるかもしれない。多かれ少なかれ,良かれ悪しかれ。僕の場合にもそのような変容はあった。』(「走ることについて語るときに僕の語ること」)
「100キロ」を「自転車で600キロ」と置き換えてみても,まったく同じことが言えるだろうと思う。小さな一歩を踏み出せたことに感謝したい。
帰宅後は,ご褒美として,タンパク質(焼き鳥)とビール,さらに炭水化物としてパスタ大盛り(笑)。
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